化学物質を監視する「PRTR法」の世界の歴史

年々、環境中に蓄積し続ける化学物質が健康をおびやかしている

 

現在、工業的に常に生産され続けている化学物質は、約10万種と言われています。

さらに毎年、世界中で新しく開発されている化学物質は、1万とも2万とも言われており、その数は年を追うごとに増え続けています。

このような状況では、新しい化学物質について調査機関がその安全性について、十分な判断を行うのは難しいと言った方が良いでしょう。つまりおびただしい量の化学物質の安全性が確認されないまま、使用が許可され、私たちの生活に入ってくるという恐ろしい現状があるのです。

危惧されることは、化学物質の多くが、自然界で分解されにくいため、年々、環境中に蓄積量を増していくことです。化学物質が蔓延する弊害は、人間を含めたあらゆる生態系の健康を脅かし、自然環境を破壊していることが今やはっきりと目に見えるようになってきています。

 

世界各国に化学物質の監視制度を求める声があがる

年々、環境中に増えていく化学物質の危険性にいち早く目を向け、世界に先駆けて制度を作ったのが、オランダです。1974年、環境と人体にとって有害な化学物質をリスト化し、「ER(排出目録)制度」を定めました。早くから環境問題に関心を寄せていたオランダは、国が総合的に化学物質の監視体制を整える必要があると考えたのです。

やがて世界各地のあちこちで化学物質の大量漏洩による大事故や被害も浮上してきました。

1984年、インドのボパールで発生した化学工場の事故では8000人の死者を出し、その後も周辺住民の健康被害が続きました。翌年はアメリカのウエストバージニア州の工場から化学物質漏洩事故が発生。アメリカ国内に化学物質の利用やその排出量について、一般住民が知る必要があるという世論が高まり、1987年には「TRI(有害物質排出目録)制度」が制定されました。

「地球サミット」によって化学物質の危険性が世界共通の認識になった

1992年、ブラジルのリオデジャネイロで「地球サミット(環境と開発に関する国際連合会議)」が開催され、有害化学物質の情報について誰もが入手できる制度を作るべきという「リオデジャネイロ宣言」が採択されました。この宣言は、後になって世界中で化学物質を監視するための「PRTR法」が制定されるきっかけとなりました。

この会議では、「生物多様性」という言葉も注目されるようになり、化学物質が人間だけではなく、地球環境の動植物及び生態系全体に深刻な危機をもたらしていることへの関心も高まりました。「リオデジャネイロ宣言」の主旨は、そして1997年、京都で開催された国際温暖化会議で採択された「京都議定書」にも受け継がれました。

OECDが、世界各国に向けて「PRTR法」の導入について支援する

「地球サミット」以後、世界の化学製品を生産する先進工業国が加盟している「OECD(経済協力開発機構)」は、「PRTR法(化学物質排出移動量届け出制度)」を加盟国に普及させようと積極的に取り組んできました。とくに1996年、「OECDは、各国政府が「PRTR法」を導入しやすくするため、「PRTRガイダンスマニュアル」を公表しました。それを受けてメキシコ、オーストラリア、韓国、スイスなど、各国の「PRTR法」導入が急速に進みました。

日本でも2001年から「PRTR法」が実地されるようになりました。具体的には、環境と人体に有害な化学物質354物質が「第一種指定化学物質」としてリスト化されました。以後、2008年、2021年の改正を経て、現在「第一種指定化学物質」は、515物質に増えています。

当然ながら「PRTR法」にリスト化されている化学物質だけが有害なわけではなく、そのほかにも数多くの有害性が疑われる化学物質が存在しているため、今後も、「第一種指定化学物質」は増えていくことが予想されます。

世界の主な国のPRTR制度の概要(2023年12月現在)

国名制度対象物質制度把握開始年
オランダER(排出目録)375以上1974~
アメリカTRI(有害物質排出目録8851987~
イギリスPI(汚染目録)排出先別:合計314
大気70
水89
土壌66
下水道89
1991~
カナダNPRI(全国汚染物質排出目録)3041993~
メキシコRETC(環境汚染物質排出移動登録)2001997~
オーストラリアNPI(全国汚染物質目録)931998~
韓国化学物質登録、評価に関する法律(化評法)4151999~
スイスCG(危険な物質及び調剤からの保護に関する連邦法)862001~
EU(欧州連合体として)E-PRTR(欧州PRTR)912007~
日本PRTR(化学物質排出移動量届出制度)5152001~