化学物質を監視する「PRTR法」の世界の歴史

知っていますか? 環境と人体に有害な化学物質が増え続けていること

今や私たちの周りには、化学物質があふれています。

アレルギーや花粉症、以前は珍しい病気であった「化学物質過敏症」がしだいに増えていますが、化学物質の蔓延による免疫機能が低下しているためと言われています。

今や3人に一人がかかると言われるガンも、免疫細胞の衰弱と深いかかわりがあります。

そのように様々な化学物質が蔓延することとなったきっかけは、石油産業の発展と深い関わりがあります。1859年、アメリカのペンシルベニア州で初めて石油の大量採取が始まり、以後、石油燃料が、自動車や飛行機、船舶の動力源として世界中に普及していきました。

さらに石油は燃料にとどまらず、精製する際に出てくる余剰生産物の利用が盛んになり、農薬、医薬品、化粧品、塗料、化学繊維、プラスチックとありとあらゆる分野の原料として使われるようになっていきました。

世界各国に化学物質の監視制度を求める声があがる

年々、環境中に増えていく化学物質の危険性にいち早く目を向け、世界に先駆けて制度を作ったのが、オランダです。1974年、環境と人体にとって有害な化学物質をリスト化し、「ER(排出目録)制度」を定めました。早くから環境問題に関心を寄せていたオランダは、国が総合的に化学物質の監視体制を整える必要があると考えたのです。

やがて世界各地のあちこちで化学物質の大量漏洩による大事故や被害も浮上してきました。

1984年、インドのボバールで発生した化学工場の事故では8000人の死者を出し、その後も周辺住民の健康被害が続きました。翌年はアメリカのウエストバージニア州の工場から化学物質漏洩事故が発生。アメリカ国内に化学物質の利用やその排出量について、一般

住民が知る必要があるという世論が高まり、1987年には「TRI(有害物質排出目録)制度」が制定されました。

「地球サミット」によって化学物質の危険性が世界共通の認識になった

1992年、ブラジルのリオデジャネイロで「地球サミット(環境と開発に関する国際連合会議)」が開催。この会議では、有害化学物質の情報について誰もが入手できる制度を作るべきという「リオデジャネイロ宣言」が採択されました。この宣言が、後になって世界中で化学物質を監視するための「PRTR法」が制定されるきっかけとなりました。

この会議では、「生物多様性」という言葉も注目されるようになり、化学物質が人間だけではなく、地球環境の動植物全体に深刻な危機をもたらしていることへの関心も高まりました。「リオデジャネイロ宣言」の主旨は、次の「京都議定書」にも受け継がれました。

OECDが、世界各国に向けて「PRTR法」の導入について支援する

「地球サミット」以後、世界の化学製品を生産する先進工業国が加盟している「OECD(経済協力開発機構)」は、「PRTR法(化学物質排出移動量届け出制度)」を加盟国に普及させようと積極的に取り組んできました。とくに1996年、「OECDは、各国政府が「PRTR法」を導入しやすくするため、「PRTRガイダンスマニュアル」を公表しました。それを受けてメキシコ、オーストラリア、韓国、スイスなど、各国の「PRTR法」導入が急速に進みました。

日本でも2001年から「PRTR法」が実地されるようになりました。具体的には、環境と人体に有害な化学物質354物質が「第1種指定化学物質」(注1)としてリスト化、そのほか81物質が「第2種指定化学物質」(注2)に指定されました)。以後、2008年、2021年の改正を経て、現在「第1種指定化学物質」は、515物質になっています。

 

(注1)第1種指定化学物質

環境中で広く継続して存在する有害化学物質

(注2)第2種指定化学物質

現時点ではそれほどではないが、将来的に広く継続して存在すると見込まれる有害化学物質

年々、環境中に蓄積し続ける化学物質が健康をおびやかしている

現在、化学物質の総数は、アメリカ化学会(AmericanChemical Society, ACS)が発行する「Chemical Abstracts」誌の登録番号が付与された化学物質は、なんと2億5000万種以上(2022年2月現在)で、工業的に生産されている化学物質ものだけでも約10万種と言われてます。

さらに毎年、世界中で新しく開発されている化学物質は、1万とも2万とも言われており、その数は年を追うごとに増え続けています。

このような状況では、新しい化学物質について調査機関がその安全性について、十分な判断を行うのは難しいと言った方が良いでしょう。つまりおびただしい量の化学物質の安全性が確認されないまま、使用が許可されているという現状があるのです。

危惧されることは、化学物質の多くが、自然界で分解しにくいため、年々、環境中に蓄積量を増していくことです。化学物質が蔓延する弊害は、人間を含めたあらゆる生態系の健康を脅かし、自然環境を破壊していることが今やはっきりと目に見えるようになってきています。

私たち一人ひとりが化学物質について知り、それを使わない生活をする

残念ながら「PRTR法」は、有害な化学物質を削減するための制度ではなく、ある程度の大きな企業がどのくらいの量の化学物質を排出移動量したかを国に報告するだけの制度です。

「PRTR法」にリスト化されている有害な化学物質は、議論の余地なく有害性が認められたものですが、私たちの生活周りでも洗剤や殺虫剤、塗料、化粧品などの日用品にも使い続けられています。

しかし私たちの一人ひとりが有害な化学物質について知ることは、化学物質の問題を解決する一歩になります。

まずは有害化学物質を知ることによって、私たちはそれを「使わない、購入しない」という選択が可能になり、各製造会社にも影響を与えることができるのです。

 

この「PRTR法の化学物質解説リスト」は、「PRTR法」の「第一種指定化学物質」の515種類についてわかりやすく紹介したもので有志の協力によって制作されました。もちろんそのほかにも有害な化学物質は数知れなくありますが、まずは一人ひとりが身近な化学物質について知り、関心を持つうえでこの「「PRTR法の化学物質解説リスト」は役立つことでしょう。

世界の主な国のPRTR制度の概要(2023年12月現在)

国名制度対象物質制度把握開始年
オランダER(排出目録)375以上1974~
アメリカTRI(有害物質排出目録8851987~
イギリスPI(汚染目録)排出先別:合計314
大気70
水89
土壌66
下水道89
1991~
カナダNPRI(全国汚染物質排出目録)3041993~
メキシコRETC(環境汚染物質排出移動登録)2001997~
オーストラリアNPI(全国汚染物質目録931998~
韓国化学物質登録、評価に関する法律(化評法)4151999~
スイスCG(危険な物質及び調剤からの保護に関する連邦法)862001~
EU(欧州連合体として)E-PRTR(欧州PRTR912007~
日本PRTR(化学物質排出移動量届出制度)5152001~


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